スポーツや、重い物を持ち上げた際、様々な理由で生じる腰痛…
そんな腰痛の中でも主に若年層に多いのが”腰椎椎間板ヘルニア”です。
しかし、私の知っている限り、何年も何十年も前のヘルニアを持病のように
「俺はヘルニア持ちだから重い荷物は持てないんだよ…」
というフレーズを耳にすることがあります。
ヘルニアは自然治癒するというのが般化される中、
「手術をしないと治らない…」
「一生ものの病気…」
と言われる方が後を絶ちません。
今回は、そんな”腰椎椎間板ヘルニア”の疑問にお答えできればという内容になっています。
腰椎椎間板ヘルニアとは
椎間板ヘルニアは、椎間円盤の繊維輪(コラーゲン繊維と繊維軟骨からなる外層部分)に亀裂が生じ、中の髄核(ゼリー状で、多くは水分が占める)が後方に突出・逸脱して神経根や脊髄を圧迫する病態です。
男性に多くみられ(女性の2~3倍)、腰痛や下肢のシビレをみられます。
症状
身体を屈曲(前屈)あるいは側屈時に髄核が後方へ移動するため神経を圧迫し痛みや下肢の痺れ、感覚異常が生じます。
筋力低下は多くの場合は、足の親指を反らせる長母趾伸筋(L5)と、ふくらはぎでつま立てをする腓腹筋(S1)、たまに、足首を上に起こす前脛骨筋(L4)にて生じやすいです。
重症例では、排尿障害や、肛門周囲の感覚異常が生じることがあります。
発症の原因
腰椎は正常なら前弯している状態ですが、腰椎を後弯させた状態で”重い荷物をもったり”、スポーツなどで後弯姿勢で過負荷が生じた場合に起きやすいとされています。
また、椎間円盤、特にはその中の”髄核”はゼリー状のおおよそ水分で形成されており、起床時には荷重ストレスがかからないことから水分を多く含み、立位や座位で活動している日中では自身の体重で荷重がかかり起床直後に比べると萎んでいる状態になります。
これは、夕方より朝に身長を測定した方が高い値になる理由でもあり、起床直後に発症するケースもあると言われています。
この椎間円盤は加齢と共に萎んでいき、同時に腰椎の動きも小さくなります。すなわち、ヘルニアは若い方、20~40代に多く見られます。
似ている疾患…
腰椎ヘルニアと類似している疾患で”脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)”があります。
脊柱管がと呼ばれる神経を通る管が、加齢により狭くなっていき、神経組織を圧迫してヘルニアと似たような症状が現れます。
主な違いとして、60歳以上の高齢者で多く見られ、腰を伸展(後屈)させた場合に症状が悪化しやすいという点になります。
ヘルニアにオペは必要ありません
ヘルニアと診断されたとしても、イコール手術が必要ではありません。
現在のスタンダードでは、重篤な排尿障害や、肛門周囲の麻痺がない限り基本的に”保存療法”で手術は必要としません。
ヘルニアに対して、オペを行ったグループと、オペをしなかったグループを追跡調査した結果、全く予後に違いがなかったという研究データも出ています。
違わない所か、手術を行った場合は関節がゆるゆるになってしまい余計に悪化する可能性すら秘めています。手術をしたために痛みに悩まされている方もいるかもしれません。それほどのリスクが手術にはあるのです。
関節が起因する痛みのケースでは、関節が緩くなる”ルーズ”な状態で痛みを出していることが大半を占めています。
すなわち、そんな痛みが出ていて、ルーズな関節を過剰な力で闇雲に牽引をした日には悪化は免れないでしょう。
しかし、それを知ってか知らずか、未だにリハビリと言いつつ、機械牽引を使用している施設やセラピスト、ドクターが存在している悲しい事実があります。
飛び出した髄核、つまりヘルニアは、自然に再吸収され元に戻ります。
時間が経過しても、今一つ症状を引きずっているケースは、ヘルニアが引き起こした”二次災害(後遺症)”によって痛みや異常を引き起こしています。
放置された後遺症
病院等の保険適応の医療機関では保存療法のリハビリ期間が制限されており、施設の都合により成果に関係なく打ち切られることが往々にしてみられます。
当初のヘルニアが原因とする神経を刺激された痛みから、腰椎の関節周囲の筋は痛みに抵抗するように、過剰(異常)に働きます。また、筋力低下を庇うために、他の筋が動作を代償して通常とは異なる動作パターンになっていきます。
これらの異常が長期的に放置された場合、筋のバランスは崩れ、姿勢や動作、歩行に異常を生じ、症状が悪化する負のスパイラルに陥ってしまいます。
つまり、”ヘルニアという疾患”自体は自然治癒するが、そこから派生した”機能障害”は据え置きで残ってしまうことになります。
アプローチの考え方
痛みを出していた腰椎の関節、”腰椎の5番と骨盤の1番(L5/S1)”は基本的にルーズになりやすい関節です。つまり、”動きがあり過ぎる”ので安定させる必要があります。
L5/S1のルーズな関節の動きは安定化、固定させるようにしなければなりません。
”プランク”運動が、ポピュラーな腰椎安定化に関わる運動になります。
それとは対照的に”動きが少ない”関節を探します。
例えば、”お辞儀をする”という動作をする上で、5つある腰椎のうち、上4つが全く動かなかったとします。本来であれば力が5分割されるはずの所が、下の1つの関節だけで動作を行うことになり、かかる重さ、動かされる範囲が大きくなり、多大なストレスがかかってしまいます。
”5人でするはずの仕事を、1人だけに押し付けて、残りの4人はサボっている”ようなイメージです。これでは痛くなったり、壊れてしまっても当然ですよね…。
それでは、動きの悪い関節を探すために、腰椎に隣接する関節で考えるてみます。
胸椎 - 腰椎 -股関節
多くの場合、胸椎、あるいは上部腰椎では動きが制限されているケースが多いので、下部腰椎を反らさずに胸を反らす運動を促していくことになります。
背もたれの低い椅子で、背もたれの上端を支点にして胸を反らせるようにすることでセルフでも関節の動きを出すことができます。
次に股関節で、動きの制限をチェックし、ストレッチなどで改善を図ります。
動きを確保した後に、使い方を忘れてしまった、正常な運動を再学習するために筋力トレーニングを行います。
腹筋と殿筋(お尻)が筋力低下しているケースが多いです。
これは、例えば、神経症状により、つま立てを行う腓腹筋に筋力低下が生じていたとします。この場合、つま先に体重を移動することが難しくなるので、姿勢や動作はカカトに重心が乗った状態に陥ります。
カカトに、つまり後ろに重心がある場合…”腰椎を反らせる、股関節は屈曲(前に曲げる方向)、胸は丸くなる”といった姿勢を誘発させやすいです。
この姿勢については運動不足の中年以降の方にも見かけることができます。
以上をまとめると
- 痛みが出ているルーズな関節は安定化させる
- 胸椎(+上部腰椎)と股関節の制限を改善する
- 使い方を忘れてしまっている弱った筋の再学習と強化
この考え方が、基本になり、そこからスクワットであったり、より難しい複合運動にシフトしていきます。
”寝た状態→四つ這い→立位” というように運動を、より不安定に難しくしていきます。
これは一つの例であり、全員が同じパターンに当てはまるわけではありません。
生活環境、仕事、過去のケガ、性別etc…多種多用な個性がありますからね。
最後に
あなたが手術をしようか悩んでいる場合、あるいは、身近で手術を迷っている方がいたなら「手術は必要ないらしいよ」と伝えてあげてください。
何年も前のヘルニアを持病のように言う方がいますが、それはもうヘルニア自体の症状ではありません。
例え一つの些細な症状であったとしても、熟成させればどんどん悪化の一途を辿ることになるでしょう。
自分の状態をしっかり把握して対処することが大切になります。
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