腰痛、肩こり、膝の痛みにと、昔から万能薬のように扱われている湿布剤。
なかば依存症になっている人もちらほら見る中、
「温湿布と冷湿布はどっちを使ったらいいの?」
「腰の痛みは温めたほうがいい?それとも冷やした方がいいの?」
といった、質問をされることがあります。
基本的には捻挫、打撲などの原因がはっきりしている急性期の炎症状態ではアイシング(冷やす)が効果的とされています。
それ以外は、温めても良い…程度でしょうか。炎症が起こってない限りは温めることで、悪化することはほぼ無いため、原因が良く分からない老人の慢性痛などには
「とにかく冷やさないように気を付けてくださいね」
と指導されている光景を良く目にします。
これではちょっと、不親切というか、無責任なのでは…という疑問が頭をよぎりました。
そんな疑問を解消すべく、温度変化が身体にもたらす影響と、痛みとの関連性についてお話しようと思います。
痛みに対する基本的な考え
炎症には冷却
どこかに、患部をぶつけた打撲や、作業をしていて、ある時を境に痛くなった痛くなったなど、痛みが起こった原因と時期がハッキリしていて、時間も間もない場合は炎症を疑います。
炎症とは、発赤、熱感、腫脹(腫れ)、疼痛の4つの兆候が見られる場合を主に言います。
対応に迷った場合は、患部が赤くなっていないか、痛みはないか、腫れていないかを確認します。
熱は左右ある手や足、腰でも右と左を比べると、炎症がある場合、温度に差があることを確認できると思います。
自分の手の甲側で1㎝程 患部から離れた位置で熱を感じるか確認します。手の平より、甲の方が温度の感覚が良いとされているので自分の手の甲を使いましょう。この方法なら目で確認しにくいケースにも対応しやすいはずです。同じ手でチェックして、左右差を比べましょう。
そして、この炎症による”痛み”に有効なのが”アイシング(冷却)”です。
患部を冷却することで、血管は収縮して、流れる血流量が減少します。
発赤、腫脹、熱感は血流量が増加して生じた症状なのでアイシングにより軽減効果があるのがわかるはずです。
そして、肝心の”痛み”に対してですが、炎症の際に発生する化学物質が、痛みの感覚受容器を刺激して、感覚神経を介して脳まで伝わります。
この神経の伝達は温度が低下することで伝達速度が遅くなり、脳に痛みが伝わりにくくなります。疑似的な麻酔のような状態ですね。
この効果を得るには冷湿布より、”氷や、保冷剤”をタオルやハンカチで包んで患部を冷やすことでより高い効果が得られます。
そもそも、冷湿布は皮膚の温度を下げる能力は極わずかでしかないとされています。
炎症がない、慢性痛に対しては
熱間も、発赤も、腫れもなく、随分と時間がたっている場合には炎症はおそらく起こっていないでしょう。
炎症症状は安静にしておけば、時間経過で自然と沈静化してくるので考えにくいです。
ただし、関節や、筋、末梢神経などでトラブルが起きていて、「腰を曲げると痛い」「膝を曲げると痛い」という症状を無理して何度も行っていると、再び炎症が起こる場合があります。
痛みとはトラブルが起こっているシグナルでもあるため、原因が分からないうちから無暗に動かすのは得策とは言えません。
炎症が起こっていない痛みに対しても神経の伝達速度を遅くするという点ではアイシングは効果があるでしょう。
しかし、一時的なものでしかありません。
痛みが慢性化、長期化している場合では筋のバランスも崩れて姿勢や動作にも影響を及ぼします。痛みから逃げるように身体を使うようになるためです。
よってこのケースは冷やしたり、温めたりといった変化では改善は難しく、鎮痛剤もほとんど効果は期待できないでしょう。
原因をつきとめ、痛みのでない姿勢、動作を学習し、再発防止のトレーニングが必要です。
湿布に期待される作用
上の項で湿布を散々否定してしまいましたが、湿布の話に映ります。
急性期の炎症には湿布よりもアイシングが良い。
慢性化した痛みには、鎮痛剤もアイシングもなかなか効果は期待しにくい。
では、湿布の役割とは何でしょう…。
アイシングには氷や、保冷剤といった手間のかかる道具を用意しなければなりません。それにアイシング中は自由に動き回ることができません。
炎症が原因のものなら短期間で済みますが、これを毎日、毎回はなかなか難しいですよね。
そこで、簡単に患部にある程度の冷感を与えられる、湿布が使われているのでしょう。実際ここまで湿布が使われているのも、世界では日本くらいだそうです。
鎮痛剤も配合されてはいますが、”おまけ”のようなものでしょう。
仮に、鎮痛剤で効果があるのなら、口から飲んだ方が効果が高いからです。
そして、ここまで触れてきませんでしたが温湿布という暖めるタイプの商品もありましたね。
温・冷湿布の「効果」の違い
温湿布も冷湿布 同様に使い方も同じですし、鎮痛剤も配合されています。
冷やすとは真逆の暖める作用ですが、これは、先ほどの考え方とは違います。
当初の痛みがあることで、周囲の筋が緊張して、血行・血流が悪くなることで出現する第2の痛みに対して暖めるという手段でアプローチを加えています。
といっても先ほどの冷却同様に暖める効果自体は、直接お風呂に入ったり、運動をする方が効果的と言えます。
注目すべきは、簡易的に暖められて、更に「ホッカイロ」とは違い、鎮痛剤も配合されているという点です。
お風呂に入って症状が楽になったり、温めることで症状が軽快するのであれば、ストレッチや、運動を始めることで根治療が実現する場合もあります。
重篤な冷え性を感じる方は別記事に簡易検査と、リスクの高い疾患についてまとめてあるので参考にしてください。
温・冷湿布の「成分」の違い
- 冷湿布=メントール(ミントの成分)
- 温湿布=カプサイシン(トウガラシの成分)
簡単に説明すると温・冷湿布の違いは、ミントかトウガラシかという差です。
しかし、実はこのメントールは身体を直接冷やしているのではなく、温度の感覚受容器を刺激して、脳に「冷たい!」と錯覚させてるだけなのです。
なので、実際はこの成分の効果では温度は下がらず、むしろ上昇するかもしれません。
アイスクリームに添えてあるミントは、アイスを食べて温度が下がりきって、甘味が感じにくくなっているのを改善する作用があります。つまり温度を上げています。
温湿布に含まれるトウガラシ成分のカプサイシンは、口の中に入れると”辛い”と感じ、身体の皮膚に塗ると”痛い”に変わります。
”痛み”と”熱い(暖かい)”を識別する感覚受容器が同じであることを利用して、弱い痛み刺激、つまりは暖かいと感じるレベルの分量を配合して、”暖かい”と錯覚させています。
そして、カプサイシンには代謝を促進する効果があり、結果的に体温が下がると言われています。
冷たいと感じれば身体は温めようとする反応を示し、熱いと感じれば身体は熱を冷まそうと反応します。
なので、慢性的な痛みに対して対処療法的に使用される場合は、温・冷湿布のどちらが良いかと聞かれれば、リラクゼーションを目的に好きな方で良いと言えます。
また、湿布剤に配合されている鎮痛剤にはサリチル酸や、インドメタシンといったものがあります。これらは鎮痛作用の他「スーッ」とした冷たい感覚も同時に与えます。
感覚、味覚に関する記事も参考にしてください。
鎮痛成分のリスク
- サリチル酸
- インドメタシン
- ケトプロフェン
先に述べた鎮痛作用を持つ成分には副作用があることを認識しておく必要があります。
サリチル酸は鎮痛作用の他に、皮膚の角質軟化作用があり、医薬品としてはイボコロリや、ウオノメコロリにも配合されています。つまり、何度も湿布を同じ場所に張り続けていると、皮膚は軟化し、カサカサになり、弱くなってしまいます。
サリチル酸は、洗顔剤や、ピーリング剤にも配合されている場合があるため、肌の弱い人は入っていない商品を選ぶようにしましょう。
皮膚の乾燥に悩む方は、もしかしたら湿布や、この成分が原因かもしれませんよ。
インドメタシンは、胃の機能を低下させ、胃潰瘍などのリスクとなります。
ケトプロフェンは、アレルギー反応があると、日光過敏症といわれる日光でかぶれを起こすリスクがあります。念のため、湿布を貼った部位は日に当てないように注意が必要でしょう。
そして、この湿布の鎮痛成分は飲み薬に比べて弱いとはいえ、何枚も身体の各所に貼れば、以上の副作用も何倍にもなってしまいます。
例えるなら、1日1錠の飲み薬を1日に大量に飲むようなものです。
考えなしに、あちこちに貼ったり、他人に渡すことは褒められたことではありませんね。
まとめ
湿布による皮膚温・体温を変化させる力はそこまでありません。
炎症を冷やしいのならアイシングが優れています。
暖めて軽快するなら運動療法が効果的です。
慢性化してしまった痛みは原因を突き止めることが第一の目標です。
それが叶わない場合の対処療法として、あるいは簡易的、リラクゼーションを目的に使われるのが湿布であると言えます。
冷湿布・温湿布のどちらか心地よい方を選んで問題ないでしょう。
ただし、副作用がゼロではないので用法容量は守る必要があります。
皮膚が弱かったり、乾燥に悩んでいるのなら使用は控えめにしたほうが良いでしょう。
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