運動

ストレッチで美しい姿勢を手に入れよう

人の筋肉は、長さが縮んだり、伸びたり、自在に伸縮するゴムのような性質があり、日々の動作や、姿勢を形造っています。

しかし、悪い姿勢や、間違った動作パターンが続くと、筋肉が短く縮んだ状態でしか活動できなくなったり、反対に、長く延ばされた状態でしか活動できなくなってしまいます。

筋肉がその人の姿勢や動作のパターンに大きく影響していることは良くご存じかと思われます。

今回は、そんな筋肉へのアプローチ(刺激)の代表格である”ストレッチ”での影響と、姿勢改善の考え方や、どのように姿勢に影響を及ぼすのかについての概論をお話していきます。

筋短縮:硬く、短くなった筋肉

筋の長さが、短い状態での姿勢が続いてしまうと、筋肉はその短くなった狭い範囲でしか活動できなくなり、その状態を”筋短縮”や、短縮した筋などと呼ばれます。

例えば、10㎝ジャンプできるノミがいたとします。このノミを天井の高さ5㎝の箱の中に長い時間入れておくと、箱から出した後でも5㎝までのジャンプしかできなくなるそうです。

人間もこれと似たような現象が起きます。

例えば、猫背の姿勢では、胸の前の筋は短くなった状態が続いています。胸の前の筋が短縮してしまうと、胸を張って、背筋を伸ばせなくなってしまいます。

このような短縮した筋の状態では、常に筋は過剰な活動を強いられている状態です。その結果、筋はエネルギー危機に陥り、疲労を起こし、痛みを伴う場合もあります。そして、この痛みは交感神経を刺激して、局所的な血流障害を起こしてしまいます。これは俗にいう”コリ”と言われている原因でもあります。

硬く短縮した筋に対しては、血流を改善し、筋の柔軟性を回復することが重要になります。

そこで登場するのが”ストレッチ”ですね。

  • ストレッチの目的
  • ストレッチの留意点
  • ストレッチのリスク
  • 方法

ストレッチの目的

ストレッチ(=伸張運動)とは、”柔軟性を改善するために筋を引き延ばす運動方法”です。

筋の伸びやすさは、筋節の増加、筋のリラクゼーションによって生じます。

筋節(きんせつ)とは、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントで構成され、これらが近づいたり、離れたりすることで筋の長さや、発揮するパワーが変化します。

物理的に短縮した筋を引き延ばすことで柔軟性を増大、血流を改善し、伸縮性の回復が目的となります。

しかし、一時的に伸びやすさが改善はする一方で、持続性に乏しい現状があります。筋節については長期間の伸張で、筋節の数が増大するという研究はありますが、短時間での伸張変化は確認されていません。

ストレッチの留意点

筋のストレッチの際には、リラクセーションを図り、”伸張反射”を誘発しないように注意が必要です。

伸張反射(しんちょうはんしゃ)とは、”筋の引き伸ばされた刺激”が脳ではなく、脊髄に伝わり、伸ばされている筋に収縮が起きてしまう、いわゆる自分の意志とは関係なく起こる脊髄反射です。

例えば、他人に腕を急に引っ張られると、無意識に、その場に留まるように逆の方向に抵抗しようと力が入るのが一般的ですよね。筋でも急に筋が引き延ばされると、筋が切れてしまわないように抵抗して、伸ばされた筋と同じ筋が、自分の意志とは関係なく勝手に筋収縮が起こります。これを”伸張反射”と呼びます。

筋の伸張性の増加に対する見解は、筋だけではなく他の因子も関与するという点があります。柔軟性を限定させる関節周囲軟部組織の因子とその割合は、関節包47%、筋・筋膜41%、腱10%、皮膚2%であり、ストレッチにより実際に筋以外も伸張されることになります。

また、ストレッチの後に対象者が、痛みや伸張感の感覚の遅延が生じるという報告もあります。これは負荷に反応する感覚の閾値(いきち)が低下し、感覚認知が変化していると考えられます。

閾値とは”水の沸点”のように99℃までは何も変化はないけれど、100℃に達すると沸騰して液体から気体に変化しますよね。感覚の場合も「ここまでなら痛くない」「これを過ぎると痛い」という境界域が存在します。これを閾値と表します。

感覚の閾値の変化を例えると、普段は40℃に設定した家のお風呂に入浴している人が、42℃の銭湯に入浴した場合は普段よりも熱いと感じるでしょう。しかし、42℃の温度にも次第に慣れていき、初回に入浴した時とは違う感覚を感じるはずです。同時にこの程度の温度では熱くないという、感覚認知も変化しているはずです。

人間の各組織(皮膚、筋、骨、神経など)は、刺激を与えなければ、感覚に対する閾値が低下し、過敏になります。水の沸点で例えると、通常100℃で沸騰するはずだった水が80℃で沸騰するようなイメージです。

反対に、常になんらかの強い刺激に晒されている状態が継続していると、感覚に対する閾値は増加するかもしれません。水の沸点で例えると、120℃でやっと沸騰が始まるようなイメージです。

これらのように筋や、ストレッチで影響のある軟部組織らも、閾値が変化し、心理的にも感覚認知が変化しているという説もあります。

ストレッチのリスク

ストレッチの方法によっては、末梢神経(坐骨神経など)をもいっしょに伸ばしてしまい、ダメージを与え、痛みやシビレの原因になってしまう場合があります。

例えば、上の絵のようなストレッチでは、太もも裏のハムストリングス、背中の脊柱起立筋、腰椎の関節、膝の関節包や靭帯、あるいは神経のどれを伸ばしているのか明確にはわかりません。

こういった方法では、柔らかいものがより柔らかく、硬いものは変化がほとんど現れないケースが多々あります。

硬さの違うゴムを2本連結して同時に引っ張ってみるとどうなるでしょう。柔らかいゴムばかりが伸びてしまうはずです。

あるいはこの姿勢で足首を上に傾け、頭を前方へ倒すと神経が最大まで引き延ばされた状態となり、神経系のトラブルがある方には危険な姿勢となり得ます

ただし、自分で行うセルフの場合は痛みで自制が効くはずなので、滅多なことにはなりくいはずです。

注意が必要で、恐ろしいのは誰かに他動的に行われる場合です。リスクを考慮せずに行われる場合は、たかがストレッチと言えど、症状の悪化に繋がります。

私の見たことのあるケースでも「腰と膝裏が痛い」という理由で、外来通院でリハビリに週2回ほど通われていた方がいます。その方は一向に症状が治らないので不信に思い、リハビリを中断したそうです。その結果、続いていた痛みは改善したそうです。話を伺ってみると、「治療のため痛いのを我慢」して、反動をつけた乱暴なストレッチを受けていたそうです。

治療する側が患者や、クライアントの身体を逆に壊しているケースですね。

痛みが出た、あるいは悪化した場合はただちにやり方を変えるのが一般的です。しかし、中にはひたすら同じ治療内容、つまり、悪化させたであろう方法を永遠に続ける治療者も存在します。

こういったケースは、あってはならないのですが、見かける機会がまだまだあるのが現在の日本の医療レベルとも言えます。

こういったトラブルに巻き込まれないためにも、利用する側にも、ある程度の知識を身に着ける必要があると思っています。

方法

主に静的ストレッチと、動的ストレッチの2種類に分けられます。

動的ストレッチ(dynamic stretching)

短縮した筋を自動運動でゆっくりと伸張し、最終伸張位で5~10秒静止した後、開始姿位に戻すという動作を5~10回繰り返します。最終可動域の付近で実施すれば、伸張反射の出現なく、筋の伸張性の増加に効果があります。

他のエクササイズと併用するなら、主のエクササイズの前が適しています。

静的ストレッチ(static stretching)

こちらが最も安全な方法だと言われています。低強度の長時間の静的ストレッチです。

セルフストレッチに関しては、筋の伸張性が拡大するまでに10~20秒必要です。30~60秒間保持した場合には筋張力における伸張反射は最大まで小さくなります。

関節可動域が最大かつ持続時間が最も長いのは、60秒間を反復するストレッチ周期です。60秒より長い場合は変化がない、あるいは神経や、血流も同時に圧迫されているため、良くはないでしょう。

頻度は健常者の場合は2回/週。筋などの軟部組織に障害がある方の場合は2回/週以上が理想的です。

※具体的な動作方法は各筋によってことなるため、別記事で改めて説明します。

筋力低下:弱く、長くなった筋肉

  • 動筋と拮抗筋とは
  • 延長・弱化した筋に対するストレッチ
  • 短縮しやすい筋 ⇔ 弱化しやすい筋

動筋と拮抗筋とは

動作や運動を説明する際に対象とする筋肉を”動筋”と呼び、動筋とは相反する動き(裏側)の筋肉を”拮抗筋”と呼びます。上腕二頭筋を”動筋”とした場合には、上腕三頭筋が”拮抗筋”ということになります。 上腕三頭筋が動筋である場合は、上腕三頭筋が拮抗筋になります。

そして、ある筋肉(動筋)が短縮している場合は、その”拮抗筋”は長さは延長し、筋力低下をきたしていることになります。

例えば、上腕二頭筋が動筋であり、上腕二頭筋が短縮した場合、拮抗筋である上腕三頭筋は延長し、筋力低下を引き起こしています。すなわち、”肘が伸びきらないというケース”にあたります。

このような場合、上腕二頭筋に対して、ストレッチなどの方法で筋を伸長させます。しかし、そのままの状態で放置してしまうと、またすぐに元の状態に戻ってしまいます。日常的にものを持ったり、顔を洗ったりする動作は全て上腕二頭筋を使うことの方が多いからです。

ストレッチの効果を維持させるためには、拮抗筋である上腕三頭筋の自動運動、筋力トレーニングを行います。ストレッチで可動範囲が伸びた肘を再び学習させる必要があります。

これを怠った場合いつまでたっても一時的に拡大した可動域が使えず、神経の発達も望めません。

筋肉とは、シーソーや、天秤の関係です。どちらか片方が強すぎたり、弱すぎても傾いてしまいます。つまり、バランスの取れた張力が重要であり、”良い姿勢”とはこれらのバランスが取れているものを示します。

昨今、趣味で筋トレやワークアウトが流行しています。そんな方もこの筋のバランスを考えながらトレーニングに取り組まなければ、「筋肉は大きく肥大したけれど、姿勢が猫背になってしまった」なんてことになり得ないのです。

しかし、筋肉が硬く、短縮してしまう原因は、何も日常の姿勢だけが原因とは限りません。

例えば、関節の靭帯を痛めて、ゆるゆるな状態になってしまっている場合、関節の安定性、痛みから守るために、関節周囲の筋が優位(過剰)に働きます。そうなれば、その筋の拮抗筋の筋力低下が起きるのは必然と言えます。つまり、理解していれば予防ができるということに他なりません。

延長・筋力低下した筋に対するストレッチ

お気づきの方もいらっしゃることかと思いますが、筋力低下や延長してしまった筋にストレッチを行うと症状が悪化してしまいます。

バランスが崩れているのにも関わらず、悪くなるほうへアプローチをかけるのですから当然ですね。

すなわち、姿勢を良くしたり、動作を円滑にするために運動療法という目的でストレッチを行う場合は、必ず”検査”が重要になってきます。どの筋肉が弱っていて、どの筋肉が過剰に働いているのかを。

この動筋と拮抗筋を頭において考えていけば比較的簡単に推測できるはずです。

短縮しやすい筋 ⇔ 弱化しやすい筋

例を挙げていきます。あくまで動筋・拮抗筋で考えた場合の推測であり、実際は生活習慣や、仕事、過去にしたケガなどでも症状や、筋活動が異なります。

【優位・短縮しやすい筋】【延長・弱化しやすい筋】
僧帽筋上部・肩甲挙筋広背筋
大胸筋鎖骨部(上部)僧帽筋中・下部
小胸筋菱形筋
腸腰筋大殿筋
ハムストリングス大腿四頭筋
股関節 内転筋中殿筋

まとめ

このように、短縮した筋のストレッチと、弱化が予想される拮抗筋に対しての筋力トレーニングを、ストレッチで拡大した可動域いっぱいに行うことがセオリーとなります。

反対に弱化や、筋トレしていても「ここの筋が弱いんだよね」などあれば、弱い筋と合わせて、その拮抗筋へのストレッチを併用することも良いスパイスになるかもしれません。

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