高齢者の転倒予防には転倒した時、させてしまった時のフィードバックが重要
転倒と一言で表しても、どこで転んだのか、誰が転んだのか、ケガの有無であったりで危険性は様々でしょう。
広い意味での転倒に対して、逐一報告書を書いていたり、画像検査をドクターに依頼していたのでは、医療・介護現場では業務効率が落ちるといった問題も発生しかねません。
受け身を取れる方、骨に異常がなく、一番のリスクである股関節周囲の筋や脂肪といった軟部組織もしっかりしていれば、平地で転倒したところで大きな問題とはなりません。
では、「今回はたまたまケガはなかったが今のは危なかった」というようなリスクのあるケースと、「今のは滅多に転ばない人が、たまたまつまずいて転んでしまったけれど、しっかり受け身も取れているし、例え10回転んだ所でケガもしないだろう」とリスクがないケースが存在します。
後者のノーリスクのケースでは現場に居合わせなければ、何もなかったかのように誰も気が付きもしないでしょう。
そう、重要なのは当然リスクのある転倒ケースです。
転倒したらどうなるのか予め周囲が把握していないと、手当、通院、検査への行動が遅れてしまいます。しっかり、身体状態を把握して予防に努める必要があります。
そして、注意していたのにも関わらず転倒してしまった、転倒させてしまった時には何故注意していたのにも関わらずに事は起こったのかをフィードバックする必要があります。
医療・介護現場での対応例
転倒が起きた際の医療・介護現場で見られる対応例を見ていきましょう。
私が過去に勤めていた障害者の施設でも転倒は報告されていないものも含めると決して少なくはありませんでした。
筋ジストロフィーの男性で、臀部の筋はほとんど機能しておらず、腸腰靭帯(股関節の前にある強い靭帯)に体重を預けるためスウェイバックのような姿勢で、疾患特有の歩き方をしている方でした。独特の歩き方ではありませすが、介助や装具なしでも屋内なら自由に歩き周れるし、捕まる物が近くにあれば床へ座り込んだ状態から立位になれるほどのレベルでした。
しかし、この方の転倒報告が頻繁に報告されだしたのを覚えています。
コミュニケーションが取りづらく、一定の場所にじっとしていることはできないといった状態です。介護スタッフは彼がいなくなると探し出して元の位置まで誘導します。食堂や、トイレへ行く際も独自では理解不足のため行けないので付き添いの介助が必要になります。
身体的には歩行は自立しているはずの彼がなぜ転倒したのか疑問でした。
が、介護スタッフの誘導する所(歩行介助)を観察しているとすぐに理解することができました。
言葉があまり通じないので、手を引いて誘導したり、背中を後ろから押すように移動方向を示していたのです。これは決して強い力、強引に押し引きしているわけではないのですが、彼は殿筋が一切機能してない状態です。手を引いたり、背中を軽く押して少しでも上半身が前方に傾けばすぐに崩れ落ちてしまうことでしょう。
この件は、なぜ彼はあのような歩き方をしているのかを介護スタッフの方々に説明し、上半身が前方へ傾かないように注意し、骨盤あたりを進行方向へ押してあげるよう介助する方法を伝えたことで改善することができました。
特徴的な歩き方の理由を全員が把握し、どうやって介助をすればいいかを理論的に理解してもらう、これが介助者の中で一人でもできていなければ、転倒が繰り返されることになります。
次は病院で起こった出来事です。
外来へ通っている方で受け付けの前で転倒されケガをしてしまったケースです。
外来であったため、身体状況を完全に把握はできていませんが、骨粗しょう症があり、臀部の軟部組織も薄いやせ型の高齢女性でした。
この方はリハビリに通っていて、外反母趾のため靴を注文していたそうです。転倒したその日にちょうど靴が納品され、新しい靴をはいたまま帰ろうとしたようです。
後日、その新しく購入した靴を確認してみると、サイズがぶかぶかで足に全くフィットしておらず、すぐに抜けてしまうレベルでした。
これでは、はきなれていない新しい靴というのもあって転倒してもおかしくはありません。
どうやら、外反母趾で角質化した母指球の痛いという訴えがあり、ラージサイズの靴を注文したようです。おまけに靴をはいた後の歩行も未確認のまま返してしまったと・・・。
正直、私はこの対応を聞いて、同じ職種として恥ずかしい限りだったのを覚えています。
原因は明確ですが、事を大きくしないために不慮の事故、転倒してしまった女性の自己責任として処理され、居たたまれないショッキングな事件となってしまいました。
※通常は外反母趾のアプローチで大きいサイズの靴を選択することはありません。今回のように転倒に結びついたり、靴の中で足が動いてしまい余計に痛い部分が刺激を受けやすくなるでしょう。
これは一部ですが、必ずしも転倒してしまった本人の能力が問題とは限りません。
これが転倒を予防する上で難しい点なのかもしれませんね。
高齢者の転倒で考えられる原因
転倒を予防する上で考えられる原因を把握しておくことが重要となります。
- 身体の機能障害の有無
- 認知症・知的障害の有無
- 床や周囲の環境
- 靴や装具の不一致
- 外的要因
身体の機能障害、これはもっとも検査しやすい項目ですが、医師の診察を受けても「ここが弱点だから転ばないように気をつけてね」とまでは教えてもらうことはありません。
一部位だけの機能障害で転倒が起こっているわけではないからです。総合的に判断する必要があります。
身体の原因を掘り下げてみます。
- 筋力低下
- 中枢神経障害
- 末梢神経障害
- 感覚障害
- 深部感覚障害
- 視覚障害
- etc
細かく挙げていくと恐らくきりがないでしょうし、単独で考えても転倒を予防できるほどの予想は立てづらいかと思います。PTなどの専門家に相談したり、わかる範囲での予防しかできないでしょう。
予測をしても失敗は起きてしまうものです。
そこで、転倒した時、させてしまった時にどれだけフィードバックができるかで、その後の転倒を予防できると考えています。
安易に「この人は認知症だから勝手に歩いてしまって転んでしまった」と考察してしまうと、予防策は「拘束」になってしまいます。
靴一つが原因の場合もあります。
杖の高さが合っていなかったのかもしれません。
足の冷え性だと思っていたら、実は神経症状で、感覚障害や、筋力低下があるのかもしれません。
安易に「仕方がない」「打つ手がない」と諦めずに思考することを止めなければ転倒予防に繋がるヒントを拾うことができるのではないでしょうか。
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